rì zhào xiāng lú shēng zǐ yān
日 照 香 炉 生 紫 烟 ,
yáo kàn pù bù guà cháng chuān
遥 看 瀑 布 挂 長 川 。
fēi liú zhí xià sān qiān chǐ
飛 流 直 下 三 千 尺 ,
yí shì yín hé luò jiǔ tiān
疑 是 銀 河 落 九 天 。
日は香炉を照らし紫煙生ず
遥かに見る瀑布の長川を挂くるを
飛流直に下る三千尺
疑うらくは是れ銀河の九天より落つるかと
解説
日に照らされて香炉峰から紫色のもや。
遠くを見れば滝が長い川を立てかけたよう。
飛び流れてまっすぐ三千尺。
まるでこれは銀河が天空から落ちるよう。
注釈
最初は、まま、写実的だなぁ、と思っていると、三句目であれよあれよと速度を増して、びっくり仰天 飛んで流れて三千尺! 滝の長さが三千尺とは大げさだと思っていると、挙げ句の果てに、まるで! 銀河が! 天空から! 落ちてくる! とまで言いだす、李白お得意の大げさ表現畳みかけ戦法。
誇張表現も二重三重と重ねれば、説得力が増すというものです。
後半はとにかく現代音で読んでも、音がいい。
中国で読むと、三千尺って語呂がよくて「さーんちぇーんちーぃ」。音でお伝えできないのが少し残念。一声一声三声の組み合わせ。感覚でいうと、高いところでぽーん、ぽーん、低いところから、うーぅ。って感じ。で、後も、これが音がいい。疑 是 銀 河「インシー インフー」落 九 天「ルオ ジオゥ ティエーン」である。天の響きがうまく余韻を残してくれる。
そして、最後に天ということによって、字面でも、ああ、高いことを見てるんだなぁ、と思わせる。ただ滝を見ているんじゃあ無い、もっともっと遠く遠くを眺めているのだ。
廬山:江西省九江市にある山。wikiリンク。様々な見所があり、多くの詩が書かれている。浄土教の発祥の地でもある。景勝地でかつ避暑地。偉い人の別荘なんかも多い。そんなこんなで中国文学アルアルの一つ。仙人洞なんていうすごい名前の穴もあるし。三畳泉という滝が一番有名。じゃあ、この滝を歌っているのか? というと、違う。秀峰にある滝だという。
香炉:廬山に香炉峰という峰がある。お香を焚く香炉ではない。香炉のような形の山に、山靄がよくかかると言う。清少納言と簾の絵があれば、この香炉峰の雪の話を指す。
長川:前川で作るものもある
銀河:天の川や星空。
九天:大空のこと。典故は楚辞・離騒
三千尺:アルプス一万尺の尺。およそ900メートル。大げさな表現だと言われる。同時に、平仄の関係で三千、になっているのだと思う。で、中国最大は貴州省にある黄果樹滝という滝で高低差77メートル。ってことはこの滝はこれより小さいということになる。ってことは、正確な高低差ではもちろんない。(世界最長の滝はベネゼエラにあるエンジェルホールでおよそ一キロだという。別に一キロの滝って無いことも無いんだ。へぇ……)
一尺の長さってどれぐらい? って思って調べてみると、案の定時代によって違う。だいたいこの時代だと30センチよりちょっと少ないぐらい、と思えばいい。
で、三千尺は○○●の組み合わせになる。数字の平仄を調べてみればわかるけど、ちょうどいい数字で、○○になる組み合わせが案外無い。
●●△●●●●●△ ●●○●●○
一二三四五六七八九 十百千万億京
で、九千尺 jiu qiān chǐ ジォウ チェン チー。どうです? 言いにくいでしょ? なんか、サーンのほうが明るい。こういう風に、作詩のテクニックも存分。それに、九千は流石に盛りすぎ。それに、九千で九を使ってしまうと、せっかくおしゃれに九天を使うのに、字がかぶっちゃうわけです。
平仄
仄仄 平平 仄仄平,
日照 香炉 生紫烟
平平 仄仄 仄平平。
遥看 瀑布 挂前川
平平 仄仄 平平仄,
飞流 直下 三千尺
仄仄 平平 仄仄平。
疑是 银河 落九天
平仄 丸表記
●●○○●●◎
○○●●●○◎
○○●●○○●
●●○○●●◎
律格
律格 七言絶句
仄起首句押韻
押韻 一先 烟川天