qīng jiāng yī qū bào cūn liú
清 江 一 曲 抱 村 流
zhǎng xià jiāng cūn shì shì yōu
長 夏 江 村 事 事 幽
zì qù zì lái liáng shàng yàn
自 去 自 來 堂 上 燕
xiāng qīn xiāng jìn shuǐ zhōng ōu
相 親 相 近 水 中 鷗
lǎo qì huà zhǐ wéi qí jú
老 妻 畫 紙 為 棋 局
zhì zǐ qiāo zhēn zuò diào gōu
稚 子 敲 針 作 釣 鉤
duō bìng suǒ xū wéi yào wù
多 病 所 須 唯 藥 物
wēi qū cǐ wài gèng hé qiú
微 軀 此 外 更 何 求
清江 一曲 村を抱いて流る
長夏 江村 事事 幽なり
自から去り 自から來る 堂上の燕
相親しみ 相近づく 水中の鷗
老妻は紙に画いて 棋局を為り
稚子は 針を敲いて 釣鉤を作る
多病 須つ所は 唯だ 藥物
微軀 此の外 更に何を求めん
澄んだ川の流れは 一曲がりして 村を抱きかかえ流れている
長い夏の日 村は 全てが物静かだ
飛び去っては 飛んで来たる 堂上のツバメ
相親しみ 相近く 水中のカモメ
老いた我が妻は 紙に描いて 碁盤を作り
幼い我が子は 針を叩いて 釣り針を作る
病気がちな私に 今必要なものは ただ薬
こんな私は 他に何を求める必要があるだろうか
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解説
杜甫49歳、いろいろあって四川省の成都で暮らしていた頃の作品。杜甫が成都の浣花草堂での暮らしを詩にしたもの。このころは生活が、杜甫の生涯のなかでは比較的安定していた三年間、穏やかな作品が多い。
相 亲 相 近 水 中 鸥 。には典故がある。『列士』卷二〈黄帝篇〉
不惊鸥(驚かないカモメとか、近づいてくるカモメ、カモメと親しむ、とかの表現があれば典故がここにある可能性が大きい)簡単にいうと、よこしまな気持ちがない人物にはカモメが寄ってくるということ。穏やかな心情や、清々しい心情を表す。
前半の四句では、川の流れと穏やかな村、人の軒先に巣を作るツバメ、船に近寄ってくるカモメ、など夏の日の農村風景の描写。
杜甫の詩は、カメラワークが素晴らしい。
平仄の規則、対句、押韻、様々な制約がある中、詩人の視点は自在に移動する。
清江が村を包み込んでいる、とは、天の視点からの導入。映画だったら空撮だ。
曲がった川が村を包んでいる。川は曲がりくねった内側が穏やかな流れとなり、外側は早い。たった7文字で、その村が、曲がりくねった川に抱きかかえられるぐらいの大きさだとわかる。
少しづつカメラは村に近づいて行く。
長い夏の一日、その村はゆっくりと時間が過ぎて行く。みんな昼寝をしていたり、ちょっとした家事をこなしたりしてるのだろう。人の姿は見えない。そこに何か、黒い影が横切る。
ツバメだ。
ツバメがひょいと空を飛び、家の軒先を飛び回っている。どこか、家の梁に巣を作っているのだ。
ツバメが飛んで行く先をカメラは追いかける。今度は川に浮かぶカモメがいる。カモメがどこかへ、泳いで行く。その泳いで行くそばに、船遊びに興じる詩人一家がいるのだ。
映画のイントロダクションのようだ。
同時に、杜甫はデッサン力に長けた詩人である。
船には三人。
それぞれ何かをしている。
カメラはその指先に近づく。
詩人の妻は紙に書いて、碁盤を作っている。
幼い子供は、針を折り曲げ釣り糸の先につける釣り針を作っている。
それを見ている詩人は、何かしらの病気になっており薬を飲んでいる。
愛おしい夏の一家、詩人は、それ以上の何かを求める必要はないとさえ思う。
ーーーしかし、このままでもいけないのだ。時は少しづつ過ぎて行く。
杜甫の詩には、壮大さと、人間描写の細やかさが同居している。
注釈
長夏:陰暦六月 もしくは夏の昼間。
事事:物事
堂上:大広間 表座敷
相近:接近
棋局:将棋盤
稚子:幼い子供、自分の幼い子供
微躯:体を少し賤んだニュアンスを含んで言う
典故:不驚鴎 《列子集释》卷二〈黄帝篇〉~67~。
心の正しいものにカモメが寄ってくる言うこと。それほどの穏やかで無心な状態。
昔、カモメと毎日、海辺で遊んでいた男がいた、毎日その男の周りには数え切れないほどのカモメが寄ってきた。ある日父親に「俺もカモメと遊びたいので、カモメを捕まえてこい」と言われ、嫌々ながら海に出ると、その日はその男にカモメが寄ってこなかった、と言う話がある。
平仄
平平 仄仄 平平仄,
清江 一曲 抱村流
仄仄 平平 仄仄平。
長夏 江村 事事幽
仄仄 平平 平仄仄,(対句)
自去 自來 堂上燕
平平 仄仄 仄平平。
相親 相近 水中鷗
平平 仄仄 平平仄,(対句)
老妻 畫紙 為棋局
仄仄 平平 仄仄平。
稚子 敲針 作釣鉤
仄仄 平平 平仄仄,
多病 所須 唯藥物
平平 仄仄 仄平平。
微軀 此外 更何求
平仄 丸表記
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●●○○●●◎
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律格
律格 七言律詩
平起 首句押印
押韻十一尤 流 liu 幽you 鸥ou 钩gou 求qiu(実際の発音はqiou、ピンイン表記はqiu)